第5回

いま学校で僕が一番苦労していることは、全校生420人を
すべて把握することだ。
全校生徒どころか、僕が社会科を受け持っている一年生150人さえ、
まだ覚えられない。
これまでに一年生四クラスで、それぞれ四、五回授業をした。
各クラスで生徒たちの自己紹介をテープに録音し、毎日、
家に帰ってからステレオで聞いている。
名前と声を結びつけるためだが、あまり効果は上がっていない。
録音した生徒たちの自己紹介の声はかしこまっていて、
日ごろしゃべる声とは微妙に違っている。
さらに、声変わりしていない男の子の声は、女の子と変わりがなく、
「アキラ」とか「ジュン」とか「ユウ」とか、
男でも女でも付けられる名前だと、性別さえわからなかった。
いまは、座席表を覚えて、
「この子はこの席だから、誰それ君だろう、、」
というふうにやっているが、これでは席替えに対応できない。
声で名前が分かること、、、、
それが僕の早急に克服しなければならない大問題なのだ。
僕は生徒とふれあいたい。
できることなら、すべての子に一日一回でもいい、
声をかけて会話をしたい。
「おはよう」なんていうのは今でもやっているが、
もっといろいろな話をしたい。
そうなるまでにはたくさんの失敗をするだろう。
A君と思って声をかけたらB君だったりすると思う。
怒る相手を間違えるかもしれない。
間違えられた子は一生忘れないだろう。
かといって、生徒が悪いことをしたのを、目が見えないからといって
見過ごしてしまってはいけない。
「担当の先生の目が見えないから、生徒がちゃんとしないんだ、」
と言われるのは、一番屈辱的なことだ。
大げさかもしれないが、僕が教師としてやっていけるかどうかは、
「生徒の名前と声とを一致させることが、できるかどうか?」
にかかっている。
そのことを生徒たちに伝えつつ、一緒にやっていきたいと思っている。

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