第12回

水泳は僕の自己表現の一つだ。
こうして文字で表現するのと同じように、
僕が泳ぐことで人に伝えられることがある、と思っている。
特にパラリンピックは、日本でも注目されるようになり、
自己表現の最高の舞台だ。
100メートル自由形だと、ほんの1分間なんだけど、
「僕はこういう人間なんだよ」と伝えられる気がする。
僕のレースというのは、目の見えない人ばかりで、
駆け引きというものがない。
自分との戦いがすべてだ。さらに、だれもがまっすぐ泳げないし、
だれもが壁を見ることができない。「もうゴールだ」と思っても、
まだ1メートル手前だったりすることもある。これらのことを僕は、
「人間だれもが夢に向かってまっすぐには歩けない。」
そういう難しさを示していると思っている。
そんなふうに僕のレースを見てくれたらうれしい。
僕の大学の五つ先輩に、ソウル、バルセロナ五輪代表で、
400メートル個人メドレー日本記録保持者の藤本隆宏さんがいる。
大学三年の四月、アトランタオリンピックの代表選考会の、
藤本さんの泳ぎに、僕は感動して涙した。
決勝のレース前、藤本さんは「河合、よくみてろよ」と僕に声をかけた。
代表にはなれなかったが、最後に追い上げて抜き、
社会人になっても努力してがんばっている姿をみせてくれた。
あれほど感動したことはなかった。
人に何かを考えさせ、感動させる泳ぎだった。
藤本さんと初めて会ったのは、僕が大学2年のときだった。
「オリンピックは緊張しましたか?」と尋ねた僕に、藤本さんは
「君も行ったんでしょ。」と答え、
バルセロナパラリンピック二位だった僕に、
同じスイマーとして敬意をはらってくれた。
僕を大学の水泳部で練習できるように尽力してくださり、
「一緒にアトランタ目指してがんばろうね。」と、
励まし続けてくれたのも藤本さんだった。
僕は藤本さんのような人間になりたい。

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