第10回
シドニー・パラリンピックの日本選手団の名簿が公開され、
僕の出場が正式に決まった。
もうだれに言ってもはばかられないという意味で肩の荷がおりたが、
もろ手を挙げて喜べるようなことじゃない。
今から本番までの百何日間は苦しい練習をするということだから。
七月は学期末で成績処理に睡眠時間を削る。九月は体育祭。
大会直後の十一月中旬には研究発表会が控えていて、その準備もある。
プールに飛び込む前に疲労感を抱えていて、一日に六千~七千メートルを泳ぐ。
二百メートルの八本目、九本目の苦しさというのは言葉にはならない。
今まで生徒たちは僕のことを、
「シドニーに出たいという目標を持って頑張ってる」と見ていただろう。
これからは、「出るからにはどうするのか」を見るだろう。
やるべきことを当然やる--その姿を見せることが僕に与えられた仕事だ。
僕が教員になったのは、何よりもそういう姿を見せることで伝えられることがある。
と、信じているからだ。
舞台を与えられたことに感謝している。
練習させてくれる学校や、応援してくれる人たちにも感謝している。
前回のアトランタ大会は金メダルが目標だったが、今回は己に勝ちたい。
自分の記録を超えるチャンスは、今回が最後だと思っている。
子どもたちには、僕が僕を超えるためにする練習や生活を見てもらったうえで、
当日の泳ぎを見てもらいたい。
このために僕が何をしたかを一番見て欲しい。
オリンピックと同じように、パラリンピックも日本のテレビでリアルタイムで見られればいいな。
ニュースのダイジェストでもいいからやってくれないかな。
どこかでそんな動きが出てこないかな。
今、そんなことを思っている。